経営理念の浸透がうまくいかず、悩んでいる経営者の方は多いと思います。
私もそんな会社にいました。
1年かけて東京の経営塾に通い、渾身の理念をぶち上げたものの、
「経営理念」という言葉さえ初めて聞く私たち社員には、
残念ながら何一つ意味が分かりませんでした。
額に飾られた経営理念は埃をかぶり、いつしか壁紙の一部のように背景に溶け込んでいました。
経営理念浸透プロジェクトの立ち上げ
社長自身も経営理念のことなど忘れてしまったかと思われた2年後、
総務課に、「社員に経営理念をもっと周知させ、理解・浸透させる取り組みを考えろ」という指令が出されます。
私はたまたま総務課と仲が良かったのですが、その話を聞いたとき、
ちょうど中小企業診断士の試験勉強真っ最中でした。
「経営戦略」「理念・ビジョン」「モチベーション理論」などを学んでいるところでした。
学んだことを試す、実践するチャンス!
すぐに企画書を用意し、社長に理念浸透プロジェクトの始動を願い出ました。
各工程ごとの若手責任者を巻き込み、彼らのアイデアや本音を引き出しながら、
まだ資格も取得していないのにコンサルタント気取りで色々なことをやりました。
最初は、とにかく目立とうとしましたね。
スルーが最も怖かったので、「なんか変な委員会ができたわ」と思ってもらうことが大事だと考えたのです。
「笑顔」が理念のキーワードだったので、
まず、「自分たちから笑顔になろう」というテーマで、
毎月自社の商品を食べる試食会を実施したり、
商品のお父さんお母さんである社員に「ありがとう」と父の日母の日プレゼントをばらまいたり、
そもそも従業員同士がお互いをよく知らないということで、
手書き・手作りの自己紹介集も作りました。
従業員同士で、「いいね!」と思ったところを匿名で投稿するサンクスカードも
カラフルに飾り付け、明るい雰囲気を作ろうと必死でした。
教科書通りにはうまくいかない、大反発の1年目
月初の朝礼では、毎月30分くらい理念浸透プロジェクトの時間を取ってもらいました。
経営理念の最重要キーワードが「笑顔」であり、
1人でも多くの人を笑顔にすることがコンセプトだったので、
「まず身近な1人を笑顔にしよう」というテーマで、
簡単に言えば、自己啓発系のグループワークも採り入れました。
経営理念に「創造」というキーワードがあるため、
「創造するために、想像しよう」というテーマで、自由形式の作品も発表してもらいました。
理念を絵や作文にしてもらって、コンテストをしてみたり。
試行錯誤の1年目のアンケートはしかし、さんざんでした。
狙い通り、「変な委員会がある」「理念を浸透させようとしている」という認識はできていましたが、賛同してもらっているとはいいがたい状況でした。
いきなり鼻をへし折られる中小企業診断士受験生^^;
製造業の現場で理念の浸透に失敗した理由
なぜ1年目に失敗したのか。その理由が、今なら分かります。
当時、さんざん勉強していた私は、そもそも経営理念というものが何なのか分かっていました。
1歳児と4歳児の母をやりながら、フルタイムで働きながら
中小企業診断士試験に挑戦しようという熱量の高さもありました。
そういう人たちと交流し、社外でプロジェクトに取り組んでいました。
既存の枠組みを壊して新しい道に進むことに、何ら抵抗感はなかったのです。
しかし製造業の現場は、基本的にマニュアル遵守の硬派な職場です。
土壌も耕さずに、突然「理念」だの「ビジョン」だの抽象度の高いことを持ち出されても、
クソの役にも立たないのです。
一足飛びに既存の枠組みを壊すのではなく、
まずは既存の枠組みの中で、聞きなれた言語や思考法に従って、
ゆっくり進めなければ副作用が強すぎるのは当たり前だったのです。
派手に印象付ける1年目を終え、2年目からは製造業の現場に合わせた手法を研究・開発し、
少しずつ理解者や応援者が増えたことを実感できるようになりました。
かたくなに拒否していた人がイベントに来てくれたり、
1年目のアンケートで酷評していた人が協力者としてアイデアを出してくれたり。
3年後のアンケートでは、経営理念の理解度は9割を超えていました。
プロジェクトが定常の委員会となって4年目に入ったころ、またしても転機が訪れます。
いよいよ独立へ向けての最終章は、次回に続きます。