これまで、私が中小企業診断士の資格を取得した経緯についてお話しました。
後輩育成の試行錯誤の中で、体系的・効率的に学ぶために、
また目に見えるゴールを設定したほうが取り組みやすいという理由もあって、
後付けで取得した資格です。
当初は、独立を目指して中小企業診断士の資格を取得したのではありませんでした。
資格を取るのが目的ではなく、勉強を通して社会人基礎力が向上した
合格前の勉強中も、学んだことを実践するのが楽しくて仕方なかったですね。
後輩育成のためのリーダーシップ論、モチベーション理論も学びました。
もちろん、最初のきっかけとなったマーケティングについても、体系立てて学べました。
教科書で解決する世界ではないけれど、教科書的な基礎知識もないのに応用は不可能です。
製造業で工場もありましたから、業務改善や生産性向上のためにできることもたくさんありました。
原価計算も、それまで与えられたエクセルを使って数字を入力するだけでしたが、
より深いレベルで原価構造を理解し、決算書も読めるようになりました。
お恥ずかしい話、それまでの私は「貸借対照表」の読み方すら知らなかったのです。
「ちんたいたいしょうひょう???」というレベルでした。
あのまま勉強していなければ、今でもわたしの社会人基礎力はおぼつかなかったことでしょう。。
企業経営理論で学ぶ、「経営理念はなぜ必要か?」
私の好きな科目のひとつに、企業経営理論がありました。
後輩育成に役立つ経営組織論、学ぶきっかけになったマーケティング論もここに含まれます。
そして、今でも私のテーマになっている経営戦略論をここで学びました。
私の教材では、経営と戦略の全体像というタイトルで、最初のページに登場するのが経営理念です。
経営理念とは、企業の存在意義、目的です。基本的に変わらないものです。
では経営理念がなぜ必要なのでしょうか。
教科書的には、1つ目は、単なる労働よりも正しいと思える理念を抱いて働くほうがモチベーションが高まるから。
2つ目は、社員が日常業務の中で行う無数の意思決定の判断基準という役目。
3つ目は、コミュニケーションのベースになるから。
しかし実際には、スローガンとして飾られているだけで役に立っていない会社もあります。
それは、経営理念が組織文化に根付いていないから。
経営理念はトップが定めるものですが、組織文化は社員が作り出すものです。
理念を単なるスローガンに終わらせないためには、
理念を組織文化に浸透させる必要があるのです。
完全スルーで額に飾られただけの経営理念
折しも、私の会社でも経営理念が初めて策定された頃でした。
代替わりを機に、後継者がはるばる東京まで経営塾に通い、1年かけて作った渾身の経営理念。
ロゴも一新し、ビジョン、行動指針、コンセプト等の一式が名刺サイズの冊子にまとめられ、全従業員に配布されたのです。
肝心の現場の反応はというと、心が痛むほど冷たいものでした。
「また何かやってるわ。」「まあ、うちら関係ないわ。」と、完全スルーでした。
かくいう私も、最初は「まーた東京で変なコンサルタントにだまされて、ついに宗教が始まった…」と思いっきり拒絶しました。
製造業の現場は、経営理念ではなく、マニュアルによって動く
製造業の現場は現実主義、数字主義で、
売上におよそ関係なさそうなフワッとしたきれいごとについて真剣に考える人はいませんでした。
指示は常に具体的で数値化され、すべてが具体的な行動に結びつくマニュアルになっていました。
言語化・明文化されない作業指示も含め、すべてにマニュアルがあったのです。
どう行動するべきかは、経営理念によってではなく、作業指示・マニュアルによって決まっていました。
それが普通の製造業の現場だと思います。
3代目の坊ちゃんが、現場のことも知らないくせに、チャラチャラ浮かれてる…といった反応で、
大層な額縁に飾ったもんだわ、いったいいくらかかったんだ、そんな金あるなら給料上げてほしい、と失笑を買っていました。
産休中の勉強で経営理念の必要性や、ビジョン・行動指針との関係に触れ、
「そうだったんだ」とやっと納得できました。
そして額に飾られた経営理念が埃をかぶって壁の背景に溶け込み、悪口さえ言われなくなった2年後、思いもかけないきっかけをつかむことになるのです。
次回へ続きます。